ピストンは完成品をそのまま使えばOKという物でもありません。必要に応じて追加加工を
行います。今回はモリブデンWPC処理を予定しているので、処理前にピストン本体の加工を終えます。
まず、トップランドのバルブリセスの切り欠き周辺の肉厚が薄い部分がヒートスポットになるのを防ぐため、
リューターで削り取ります。バルブリセス周辺の角も追加でR面取りっぽく面取りを行いました。
画像右側が加工後です。ピストン一個当たり4箇所の精密加工なので、結構時間がかかります。
0.2R以上あればヒートスポットにはならないと何かに書いてあった気がします。
あまり大きく削っても容積がばらついてしまうので、今回は0.6R程度になるように仕上げました。
今回の主目的はフリクションの低減です。WPCには強度アップ、対ノック性の向上等の効果もあります。
WPC無しで使用する場合、特注時にピストンスカートにモリブデンコートを追加することも可能です。
WPCに比べ効果は劣りますが、多少安価に施工可能です。
車両入庫後にまずパワーチェックを行います。いわゆるトヨタ馬力は辛口シャーシダイナモでどれだけの
成績を叩き出す?のか。
結果はまあまあ。トヨタのスペックによると190ps、18.4kg・m、
計測結果は最後のリミッター作動でロス馬力が多めに出た分を考慮すると、
172ps、16.5kg・mでした。2回計測しましたが、2回目は多分吸気温度が上がったせいで168psでした。
トヨタ係数=1.1倍?今日も辛口採点。
画像では降りてますが、降ろす前に暖気状態で忘れずに圧縮圧力を測定します。
1番から16.5、17.0、17.0、16.8と若干ばらつきが。
タペットクリアランス、バルブの当たり等、要確認ですね。
各部の状態を確認しながらエンジンをバラしていきます。タペットクリアランスは1番と4番の吸気がやや広め。
圧縮のバラつきの原因はこれか?オイル交換はキッチリやってあったようで、走行距離が4万キロと少ないのもあり、
オイル焼けは少なめ。
腰下はこんな感じ。全域殆どストイキで回しているようで、カーボンの堆積はかなり少なめ。
冷却水の管理があまり良くなかったようで、ウォータージャケットに若干の腐食が。これくらいなら問題ないです。
クーラントの防錆効果は2年程度しかもちませんので、2年に一度程度の交換をお勧めします。
設計は4AGと比べると各部で隔世の感があり、各部が大きく改善されている印象。
腰下単体でのフリクションは4気筒のエンジンとしては意外と大きかった。
空転トルクで70〜80kg・cm程度。これは大きく改善できそうな予感。
トヨタの鉄のブロックの面研と比べると、アルミのオープンデッキブロックという事で気を使ってるのか
結構細かく仕上げてある。シリンダーはセラミック系のコーティング。死点での
リング位置の磨耗も殆ど無く、耐久性は良いようだ。これならボーリングできなくてもまあ許せると思う。
クロスハッチは無く、スムーズな仕上げ面になっており、ピストンのWPCとの相性が良さそう。
燃焼室は4バルブの高回転型のエンジンとしてはかなり良い出来だと思います。
特にインテーク側は純正状態でビッグバルブ化したかのような余裕の無さ。
エキゾースト側はシートリング間に十分な余裕を持たせて冷却をしっかり行えるような設計。
画像右側の水穴から機械加工で冷却水路が通してあります。
形状は16バルブ、20バルブの4AGの反省を生かして?ヤマハのノウハウを生かしてでしょうか?
ホンダのB型と似たような形状。しかもシートリング付近の段付はほぼ無し。
F1のエンジンの変遷を見て分かるように、5バルブのメリットは殆ど無く、
世の高性能エンジンは4バルブに収束しつつあります。ちなみに、バルブの傾斜角はIN21度、EX22度で、
16V4AGのIN&EX25度と比べて燃焼室は扁平な形状。
ポートの段付(先端で指示している部分)は20年前の4AGと大して変わらず。
チューニング屋としては複雑な気分。
吸気ポートの集合部は鋳物の限界に近いような攻めた形状。感心感心。排気ポートの集合部は
普通。なので改善。
Before
今回は家車を代車無しでお預かりしている都合で急ぐので、カーボンごと削ります。
After
フランジ側のサイズはガスケットには合せず、エキマニに合うように拡大。問題はエキマニ、
まさかあんな事になっているとは…!
ここもオイル焼けは少ない。クランク周辺の寸法的な余裕が結構あり、これならストロークアップする場合も余裕そう。
メタルの当たりも良好。シリンダーブロックは単体だと非常に軽量で、持った感じではシリンダーヘッドよりも軽いようです。
ライナー無しというのも軽量化に効いているのでしょう。個人的にはライナー有りの方がチューニング向きだと思います。
シリンダーの上部はこのようにバルブの逃げ加工が施されています。多めに加工されているので、
バルブ周辺のマスキングが低減でき、吸排気の効率にも効いていると思います。
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