特注ピストン

今回はカムはノーマルで、交換の予定も無いので、バルブリセスは純正ピストンと同じ深さで製作。
他社のピストンはリセスを増してある物もあるが、必要以上のバルブリセスは燃焼室形状を悪化させるので必要十分な寸法がベストです(当然、バルブ-ピストン間のクリアランスは必要です)。
NAで性能を出すには回転系の軽量化は欠かせず、軽量化の為にCPのXタイプの鍛造型で製作しました。バルブリセス、ピストントップの形状は狙い通りの形状とする為に図面で指定してあります。圧縮比は12.6を狙います。
ピストン比較1
コンプレッションハイトの短縮に加え、スカートも短くなっているので、全長は14mm程度短縮されています。圧縮比の確保の為にピストントップが盛り上がっています。
ピストン比較2
ピストンの裏側の形状は全然違います。純正は比較的古い設計となっており、強度は出しやすい構造ですが、重量がかさみます。対してXタイプの鍛造型はピンボスの外側が鍛造型の段階で大きく肉抜きされており、かなり攻めたスリッパータイプとなっています。
スポーツエンジンにはコストを掛けても純正で鍛造ピストンを採用して欲しいですが、コストの厳しい国産車ではなかなか難しいようです。ポルシェとかのエンジンだと純正でマーレーのかなり軽量なピストンが入っています。ボアがでかいエンジンはピストンで頑張ると恩恵もかなり大きいです。
2ZZショートピンハイトピストン1
トップランドにある溝はコンタクトリダクショングルーブ、セカンドランドはアキュムレーターグルーブです。
コンタクトリダクショングルーブはシリンダーとの接触を減らし、異常燃焼時のスカッフ(焼き付き)を最小限に抑えます。トップランドにカーボンがたまった際の悪影響も少ないです。
アキュムレーターグルーブはセカンドランドのガス容量を増やすことで高回転型、ハイブーストのエンジンのトップリングのフラッタリング(バタつき)を抑える効果があります。ピストンリングのシール性の向上はブローバイガスの低減やオイル消費だけでなく、パワーアップにも効きます。
2ZZショートピンハイトピストン2
ピストントップはフル機械加工なのでピカピカです。使用するピストンリングはトップ1.0mm、セカンド1.2mm
オイル2.0mmの低張力タイプで、フリクションを低減します。

測定の結果、重量は以下のように変化していました。
ピストン重量比較

比較項目 純正ピストン 2ZZショートピストン
ピストン本体重量 336.6g 269.6g -67g
ピストンピン重量 89.6g 62.0g -27.6g
重量合計 426.2g 331.6g -94.6g

かなり軽く出来るとは思っていましたが、一気筒あたり100g近く、2割以上軽くなると、その効果は絶大です。これは完成が非常に楽しみです。

特注コンロッド

特注ロングコンロッド1
2ZZ純正のコンロッドは大端部、小端部とも薄く、他のコンロッドを流用するには結構加工が必要なので、トータルで安くなるように特注にて製作しました。純正の582g(メタル付)に対して470g(メタル別)、メタルが2枚で約25なので、約90gの軽量化を実現。

特注ロングコンロッド2
大端部はパワーアップしても十分な耐久性を確保できるように剛性を重視した設計。大端部の剛性が高いと
メタルの当たりが良くなり、エンジンの耐久性も向上します。
特注ロングコンロッド3
小端部はブッシュ入りのフルフロー仕様オイルの供給穴は2箇所設けてあります。

ピストン加工

ピストンは完成品をそのまま使えばOKという物でもありません。必要に応じて追加加工を
行います。今回はモリブデンWPC処理を予定しているので、処理前にピストン本体の加工を終えます。
2zz-piston-05
まず、トップランドのバルブリセスの切り欠き周辺の肉厚が薄い部分がヒートスポットになるのを防ぐため、
リューターで削り取ります。バルブリセス周辺の角も追加でR面取りっぽく面取りを行いました。
画像右側が加工後です。ピストン一個当たり4箇所の精密加工なので、結構時間がかかります。
0.2R以上あればヒートスポットにはならないと何かに書いてあった気がします。
あまり大きく削っても容積がばらついてしまうので、今回は0.6R程度になるように仕上げました。

モリブデンWPC

2zz-piston-06
今回の主目的はフリクションの低減です。WPCには強度アップ、対ノック性の向上等の効果もあります。WPC無しで使用する場合、特注時にピストンスカートにモリブデンコートを追加することも可能です。それぞれ特徴があり、目的とする効果に応じて使い分けております。

パワーチェック

車両入庫後にまずパワーチェックを行います。いわゆるトヨタ馬力は辛口シャーシダイナモでどれだけの
成績を叩き出す?のか。
2zz-powercheck
結果はまあまあ。トヨタのスペックによると190ps、18.4kg・m、
計測結果は最後のリミッター作動でロス馬力が多めに出た分を考慮すると、
172ps、16.5kg・mでした。2回計測しましたが、2回目は多分吸気温度が上がったせいで168psでした。
トヨタ係数=1.1倍?今日も辛口採点。

エンジン降ろし

2zz-01.jpg
画像では降りてますが、降ろす前に暖気状態で忘れずに圧縮圧力を測定します。
1番から16.5、17.0、17.0、16.8と若干ばらつきが。
タペットクリアランス、バルブの当たり等、要確認ですね。

エンジン分解

2zz-02.jpg
各部の状態を確認しながらエンジンをバラしていきます。タペットクリアランスは1番と4番の吸気がやや広め。
圧縮のバラつきの原因はこれか?オイル交換はキッチリやってあったようで、走行距離が4万キロと少ないのもあり、
オイル焼けは少なめ。
2zz-03.jpg
腰下はこんな感じ。全域殆どストイキで回しているようで、カーボンの堆積はかなり少なめ。
冷却水の管理があまり良くなかったようで、ウォータージャケットに若干の腐食が。これくらいなら問題ないです。
クーラントの防錆効果は2年程度しかもちませんので、2年に一度程度の交換をお勧めします。
設計は4AGと比べると各部で隔世の感があり、各部が大きく改善されている印象。
腰下単体でのフリクションは4気筒のエンジンとしては意外と大きかった。
空転トルクで70~80kg・cm程度。これは大きく改善できそうな予感。

各部を観察

シリンダー

2zz-04.jpg
トヨタの鉄のブロックの面研と比べると、アルミのオープンデッキブロックという事で気を使ってるのか
結構細かく仕上げてある。シリンダーはセラミック系のコーティング。死点での
リング位置の磨耗も殆ど無く、耐久性は良いようだ。これならボーリングできなくてもまあ許せると思う。
クロスハッチは無く、スムーズな仕上げ面になっており、ピストンのWPCとの相性が良さそう。

燃焼室

2zz-05
燃焼室は4バルブの高回転型のエンジンとしてはかなり良い出来だと思います。
特にインテーク側は純正状態でビッグバルブ化したかのような余裕の無さ。
エキゾースト側はシートリング間に十分な余裕を持たせて冷却をしっかり行えるような設計。
画像右側の水穴から機械加工で冷却水路が通してあります。
形状は16バルブ、20バルブの4AGの反省を生かして?ヤマハのノウハウを生かしてでしょうか?
ホンダのB型と似たような形状。しかもシートリング付近の段付はほぼ無し。
F1のエンジンの変遷を見て分かるように、5バルブのメリットは殆ど無く、
世の高性能エンジンは4バルブに収束しつつあります。ちなみに、バルブの傾斜角はIN21度、EX22度で、
16V4AGのIN&EX25度と比べて燃焼室は扁平な形状。

2zz-06.jpg
ポートの段付(先端で指示している部分)は20年前の4AGと大して変わらず。
チューニング屋としては複雑な気分。

ポート集合部

2zz-07
吸気ポートの集合部は鋳物の限界に近いような攻めた形状。感心感心。排気ポートの集合部は
普通。なので改善。
2zz-08
Before
今回は家車を代車無しでお預かりしている都合で急ぐので、カーボンごと削ります。
2zz-09
After
フランジ側のサイズはガスケットには合せず、エキマニに合うように拡大。問題はエキマニ、
まさかあんな事になっているとは…!

シリンダーブロック

2zz-10.jpg
ここもオイル焼けは少ない。クランク周辺の寸法的な余裕が結構あり、これならストロークアップする場合も余裕そう。
メタルの当たりも良好。シリンダーブロックは単体だと非常に軽量で、持った感じではシリンダーヘッドよりも軽いようです。
ライナー無しというのも軽量化に効いているのでしょう。個人的にはライナー有りの方がチューニング向きだと思います。
2zz-11.jpg
シリンダーの上部はこのようにバルブの逃げ加工が施されています。多めに加工されているので、
バルブ周辺のマスキングが低減でき、吸排気の効率にも効いていると思います。

バルブ加工

2zz-valve-01.jpg
バルブの当たりは吸気側はかなり良く、排気側も悪くは無いのですが、少々荒れています。

2zz-valve-02.jpg
バルブステム(軸部)の状態は、ロッカーアーム式なので少々不安だったのですが、かなり良いです。
表面処理(窒化処理?)の黒もしっかり残っています。

2zz-valve-03.jpg
カーボンは吸気側はうっすらとやわらかめに、排気側はうっすらと硬く堆積しています。

2zz-valve-04.jpg
排気側のみ当たり面を修正しました。画像は摺りあわせ後の物です。吸気側は硬化層を残したいので修正は無しです。

2zz-valve-05.jpg
ソフトブラストでハードカーボンもすっきり綺麗になりました。普通にボール盤に咥えて、
サンドペーパーで磨くより楽で仕上がりは新品同様になります。参考までに使用メディアはガラスビーズの#100です。
綺麗な部品を組みつけられるのは気分が良いです。

エキマニフランジヘッド側

2zz-exhaustmanifold-01.jpg
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段差が2mm程度あります。それも、フランジ部分で一度径を絞って、パイプ部分でまた広がるという
無駄な段付。おそらく、パイプの寸法誤差による位置のずれを、フランジ側の穴径を小さく設定しておくことで
吸収しているか、フランジの溶接強度の確保や排気ガスの吹き返し防止なのだと思います。
腹立たしいので、リューター全開で切削油が発煙するペースで削りました。ガッツリ削ってストレス解消?
2zz-exhaustmanifold-03.jpg
2zz-exhaustmanifold-04.jpg
切り粉の量がこんなに。作業中に風圧で吹き飛んでいる分も多いので、実際にはこの1.5倍はあると思います(笑)。
これくらい削るには超硬バーでないと刃が立ちません。