コンセプト
ホンダの名機、B型エンジンはノーマルでチューニングエンジン風の高回転仕様となっており、開発より20年程たっていますが、国内外を問わず根強い人気を誇っています。高回転でパワーを発揮するNAエンジンゆえに、ハードに使用すると10万キロ以内にシリンダーが磨耗しパワーの低下、オイル消費とブローバイガスが増加してきます。
今回のエンジンも走行距離がかなり増え、パワーが落ちてきており、オイル消費もかなり多くなってきたのでオーバーホールも兼ねてエンジンをパワーアップさせたいとの事でプロジェクトスタート。オーナーの峠をメインに高回転でブン回して楽しみたいという希望と、予算面の都合でB16Aをベースに1.6Lのままでチューニングを行うことに。
通常、1.8L化で余るB16Bのクランク、耐久性確保の為にH断面コンロッドB18C用を流用し、特注のショートコンプレッションハイト(ピンハイト)のピストンを使用して低フリクション化し、高回転までスムーズに回るエンジンを目指すことに決定。B18C用のコンロッドを使用するのでB16Cプロジェクトとしてスタート。コンロッドは3.6mmロングとなります。極端なコンプレッションハイトの短縮はピストンの耐久性等にデメリットも出てきますが、これくらいならストリートでの使用でも耐久性への悪影響は殆どありません。
ベースエンジン
今回は作業期間の短縮の為にベースエンジンを別途用意しました。
アルミブロックなのでオーバーヒート歴の無い物を選びます。
オーバーヒートで過熱するとブロック、ヘッドとも全体的に反ってしまいます。
鋳鉄のブロックだと、反り難いですが、アルミのヘッドはやはり反ります。
とりあえず洗浄して状態を確認することから始めます。
高回転化対策(ブロック)
B16Aをベースに高回転でも耐久性を確保するために、ブロックガードでシリンダー周りを強化し、
メインスタッドボルト(クランクキャップのスタッドボルト)でクランク周りを強化します。
ブロックガードはオープンデッキのホンダエンジンならではのパーツで、高回転時のシリンダーの変形を防止し、
フリクションの低減、リングシール性の向上(パワーアップ、ブローバイガスの低減)の効果があります。
取り付け後にダミーヘッド付ボーリングを行うことで、完成時のシリンダーの真円度を高め、
フリクションの低減とブローバイガスを低減します。B型はタイプRエンジンは純正でダミーヘッド付で
ボーリングを行っているのですが、16Aは無しなので、ブローバイが出やすく感じます。
エンジンのチューニングの際にはクランクがスムーズに回転するよう必ずラッピングを行います。
ターボ、NAを問わず、こういった加工の積み重ねで低回転、低負荷からスルスルと回転するエンジンに仕上げます。
スタッドボルト化は16B、18Cにはクランクキャップに補強のブリッジが入っているのですが、
同様に補強するために行います。通常のボルトよりしっかりと締結でき、メタルの当たりとかも結構違います。
オイルポンプもタイプR用で対策。
コンロッドがタイプR用になるので、メタルもタイプR用のブラックメタル(ホンダ純正)が使えます。
ホンダのクランクは硬くて好きです。国産で一番良い材料を使ってるかも。今回も曲がりはありませんでした。
高回転化対策(ヘッド)
バルブのサージング防止、レスポンス等の向上の為にバルブスプリングとチタンリテーナーを投入。
クロワー製を使用することで国産のチタンリテーナー代で強化スプリングも買えます。
信頼性も専門メーカー製で実績もあるので十分です。
今回は予算の都合もありタイプRカムを選択しましたが、ハイカムを使用した更なるチューニングにも対応可能です。
磨耗したバルブもウエストバルブ化されて充填効率が向上しているB16B用のバルブに交換します。
ポートの形状は純正でかなり良いので、段付修正等で細かな部分を改良する、ファインチューニング程度で十分です。
吸気側は純正で大きすぎるくらいなので、改良するなら拡大よりもエポキシの充填材で埋める方が良いです。
エキゾースト側はガスケットに合わせて若干ですが拡大しました。
今回力を入れたのは燃焼室の形状です。バルブ周辺のマスクエリアを減らし、充填効率を上げるのと、
燃焼がスムーズに広がり、燃焼効率が向上するように改良しました。画像右側の方がバルブ周辺に
多くの隙間が有るのが分かるでしょうか。
集合部分、バルブガイド周辺は流れを妨げないよう形状を変更します。形状が出来たら全体的に
スムーズになるように仕上げます。
スペシャルピストン
B16AブロックにB16Bクランク、B18Cコンロッドを流用する為に製作された専用ピストンです。
後々のハイカムへのステップアップの可能な最小の量でバルブリセスの深さを設定し、
ピストントップの盛り上がりを最小限に留めてあります。面研と合わせて狙い通りの圧縮比を実現します。
純正のピストン&コンロッドと比べるとこの通り。ピストンとコンロッドで各気筒150g近く軽くなっています。
往復質量は軽くなればなる程、ロス馬力が減らせ、さらにスカート面積の低減、ロングコンロッド化で
フリクションの低減もあるので、これらの交換の恩恵は大きいです。軽量化でレスポンスも良くなり、
気持ちの良いフィーリングになります。
その他
峠は勿論、サーキットの横Gでもオイルを確実に吸えるようにオイルパンにバッフルプレートを仕込みました。
これでコーナリング中のVテック落ちが防げます。
パワーチェック
慣らし運転、実走セッティング後にパワーチェックを行いました。セッティングの段階でかなり早く、
結構パワーが出てそうな手ごたえがありました。パワー感は勿論、アクセル開度が少ないところから
トルクがモリモリでており、アクセルを踏み込むとテンロクNAとは思えないトルクが出ます。
測定の結果、かなり辛口のシャーシダイナモで200ps越えを達成。
1.6Lとしては十分な結果だと思います。2500回転からフラットにトルクが出ている(15kg・m)ので乗りやすく、
V-TECHオンでパワーとトルクがグイッと伸びるので乗って楽しいです。
ここまで狙い通りに仕上がると作り手としても非常に嬉しいです。
一応、一万回転回しても大丈夫ですが、常用は9000回転までが良さそうです。